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テキスト公開にあたって


     いい教科書はその学問分野の発展に寄与する。いい教科書は、学問の発
     展に必要不可欠なものだ。しかし、そのような認識が世間一般で、特に
     日本であるかというと、そうでもないように思われる。英語の教科書の
     出版数に比べると、日本語の教科書の出版数が圧倒的に少ない。これは、
     認識の違いの現れであるように思われる。アマゾンで教科書を調べると、
     英語の教科書の数の多さには圧倒される。日本の教科書、そして学問自
     身がピンチである。

     もちろん、教科書を書く側にも言い訳がある。例えば、いわゆる教科書
     を出版しようとしたところで、2000部売れればいい方で、標準的にはもっ
     と少ない部数しか販売が期待できない。そのため、単価が上がって学生
     は買いにくいし、印税は少なく設定されることが多い。教員側も苦労が
     多い割りに、金銭的にも学生からの評価の面でも、メリットは少ない。
     まして、研究業績で汲々としている研究者が書こうと思うことはないで
     あろう。アメリカでも同様なことが起こってもよさそうではある。しか
     し、英語を母国語とする学生の数が圧倒的に多いために、マイナーな分
     野でもそれを学習しようとする人口が多い。そこで、出版されることが
     多い。かくして、よい教科書は、みんな英語になってしまう。

     では、日本での対策(教科書をどんどん出版して、よい教科書がその中か
     ら出てくるような方策)としてどのような方法がありうるだろうか。

     一つの方法は、いい教科書をみんなで買いつづけることである。日本国
     民全員が1冊持つ、ということになれば、おおよそ1年間に100万冊売れる
     のである。(このように考えると、ミリオンセラーというのはすごいこと
     である。短期間に1学年全員が購入することになる。) しかし、このよう
     にすると、講義にカスタマイズされた教科書は望めない。また、最新情
     報が入った書籍にもなりえない。

     もう一つの方法は、全くのボランティアにすることである。中途半端な
     報酬では、かえって労働意欲が削がれる。そこで、純粋にボランティア
     活動にしてしまうことである。これは、教科書を書いたら、Web に載せ
     ましょう、ということを意味する。無料で公開するのだ。
     
     大学教員が教科をストレスなく世の中に出していくには、上の二つの選
     択肢が有力であろう。私の選択肢は無償公開である。目を転じて、出版
     社や書店の立場で考えてみよう。上の二つの著者の選択肢は、出版業界
     に対しては厳しい選択肢である。出版業者は、特に学術書に関わる業者
     は、文化を維持するために必要であるので、個人的にも無くなってほし
     くない。そこで、出版業界は、自由に出回る教科書に、品質保証を行っ
     たり(箔をつけたり)、装丁を美しくしたり、レイアウトを工夫したりと、
     そういった工夫が求められるようになるであろう。(ちなみに、そうした
     努力は、現在、著者に求められている。) 個人的には、業者には、そう
     した努力を期待している。

                                        2012-02-16 (木) 15:48:57

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Last-modified: 2012-02-18 (土) 20:00:21