エネルギーバランスモデル
はじめに
地球は、太陽からの光を受け止めて温まり、赤外線を放出して冷却する。
この両者がバランスしてある温度が保たれると考えられ
る。エネルギーバランスモデルと呼ばれるものは、
熱の輸送や氷(雪)による太陽光線の反射などを考慮しながら、こ
の熱のバランスの関係を簡単
化し、数式で表したものである。(注)
ここではドラえもんから地球のミニチュアセットをもらっ
たのび太君の気持になって、太陽からの光の量を調整し
た時の地球の気温の変化を調べてみよう。
モデルの概要
ここで扱うモ
デルは、次のような温度
の時間変化の式であらわされる。
( Lindzen の教
科書を参照してモデルを構成した。)
ここで、地表面の温度は、経度方向には一様であるとし
て、時間と緯度だけの関数としてある。
熱容量 × 温度の局所的な時間変化 =
太陽放射による加熱率
- 地球からの赤外線の射出による冷却率
+ 熱輸送によってもたらされる加熱率
このうち、太陽放射による加熱は、
太陽定数 × 角度による効果 × (1-アルベド)
とあらわされる。
ここで、
- 太陽定数
- 地球上で太陽に対して垂直な面
に単位面積あたり、単位時間当たりに届くエネルギーの
量である。地球は丸いために緯度ごとに角度による効果を乗じなけ
ればならない。
- アルベド
- 太陽からの放射エネルギーの反射
率である。したがって、1-アルベド という量は、太陽からの放射
エネルギーの吸収率を表す。
アルベドは地表面の状態によって大きく変化する
が、もっとも重要なのは氷や雪があるかどうかで
あろう。
そこでこのモデルでは、簡単のために次のようにした。
アルベド(反射率) 吸収率(1-アルベド)
氷がある場合 0.6 0.4
氷がない場合 0.3 0.7
そして、氷(雪)があるかどうかは、温度が摂氏-
10度以下か以上かだけで判定することにした。
課題
現在の太陽定数は、約 1370 W/m/m である。また、この
モデルでは、初期に地表面の温度がどの
緯度でも一定(初期の温度 I.T. が一定)であったとして
計算を始める。これらに気を
つけながら、以下の課題をやってみよう。
なお、グラフにある単語の訳は次の通りである。
Temperature : 温度
Latitude : 緯度
Boundary : 境界
Average : 平均
- ヒステリシス
- このモデルを使って、次のように太陽定数を変化
させた時、どのようなことが起こるだろうか。
- 太陽定数(S.C.)が 1000 W/m/m からはじまって、
徐々に増加し、1700 W/m/m に達する。
- その後太陽定数(S.C.)が 1700 W/m/m からはじまって、
徐々に減少し、1000 W/m/m になる。
このようなモデルでは、上の 1,2 の過程では可逆ではない
ことが知られている。すなわち、1 の過程を逆に戻していく
と 2 の過程になるかというとそうではない、ということで
ある。この様な非可逆性をヒステリシスという。
太陽定数を非常にゆっくり変化させた時に(平衡
状態を保ちつつ変化させた時に)、氷の
境界の位置と平均温度がどのように変化するかを、
横軸に太陽定数、縦軸に氷の境界の位置と平均温
度をとって図にしなさい。
※ なお、毎回毎回 Stop ボタンを押すのではなく、継続して行うこと。
また、太陽定数は 20[W/m/m] 程度ずつ変えればよい。
右上の平均気温の値が落ち着いたら、その値と氷の境界の位置を記録すること。
そして、とりためたデータからグラフを作成すること。
応用課題
応用課題についてはできる範囲でやればよい。
- このモデルには採り入れられていない効果はいろ
いろ考えられる。どんなものが考えられるか。そ
れはどのような状況で重要になるか。
- 地球が形成された頃の太陽定数は今よりもかなり
小さかったことが知られている。その変化の様子
を文献で調べてなさい。そしてこのモデルと関係づけて地球大
気の温度変化を論じなさい。
2008/10/23
森 厚 ( Atsushi Mori )
_ _
│\ /│ ○ 桜美林大学
│ ∨ │┌┐┌/ ┌┐ 物理学(地球流体力学)
└┘└┘└┘└┘└┘──────────────