相対性理論(特殊相対性理論) †
- はじめに
ここに示したのは相対性理論(特殊相対性理論)についての簡単な説明です。講義で扱っています。
相対性理論(相対論)を講義で説明するとき、いつも困難を感じます。それは、運動しているものを考えるため、
できるだけアニメーションやビデオがあるといいと思うのに、著作権の問題でウェブに掲載できなかったり、また、
ビデオの説明そのものも、難しすぎたり、間違いがあったりするからです。そこで、自分でアニメーションを作る
ことにしました。GeoGebra なら数式をそのまま動画にできるので、相対論にかかわるアニメーション作成にも
適しています。このページのアニメーションは GeoGebra で作ったものです。
速さの足し算や引き算(相対性理論よりも前の考え方) †
- 問題設定
まずは、相対性理論よりも前の考え方を紹介して、それを確認します。
二つの電車A(図の上)とB(図の下)があるとします。A は走っていて、止まっている B の横を通り過ぎます。ちょうど、真横で隣りあったとき
電車の中央から両端に向かって音とか、弾丸とかが発射されるとしましょう。音とか弾丸は、どのように電車の両端に届くでしょうか。
- 電車 B の場合
止まっている電車 B では、当然、同時に両端に達します。
- 電車 A の場合
それでは、動いている電車 A ではどうでしょうか。
- 音の場合
音は空気に対して(温度などの条件が整えば)一定の速さで伝わります。そこで、電車内の空気が電車と一緒に動いているのであれば、電車に
乗っている人から見て、右にも左にも同じ速さで音は進みます。そして、同時に両端に届きます。
- 弾丸の場合
弾丸は、弾を打ち出したモノ(人)から見て一定の速さで進みます。そこで、弾丸を発射した銃が電車と一緒に動いているのであれば、電車に
乗っている人から見て、右にも左にも同じ速さで弾丸は進みます。そして、同時に両端に届きます。
- 確認すべきこと
以下で述べる相対性理論との違いを強調するために、ここで、確認しておきたいことがあります。
- 同時に両端に届くこと
ひとつは、どちらの電車内でも、同時に両端に届くということです。
- 速さの足し算引き算
もうひとつは、止まっている電車 B に乗っている人が走っている電車 A の中での音や弾丸がどの様な速さで伝わっているように見えるか、
ということです。電車 A の中で右に進むものは、電車の速さが足し合わさって、速い速さで進むように見え、左に進むものは、電車の速さを
差し引いてゆっくり進むように見えるはずです。このように速さの足し算とか引き算が行われ、それが止まっている人から見た速さになります。
これについては、皆さんが利用する本当の電車で確かめることができるでしょう。ボールを持って電車に乗り、手でボールを行ったり来たり
させるとき、どちらかだけが、むちゃくちゃ速くなったり、むちゃくちゃ遅くなってポトリと落ちたりしません。電車が一定の速度で走って
いるなら、止まった地上でやっていることと同じようなことが電車の中で実現します。
アニメ1(※ 左下の三角の印をクリックしてください。)
光の場合(光速度不変の原理に基づいて) †
- 問題設定-1-
話を次に移します。
相対性理論では「誰が観察しても光の速さは一定である」という前提(これを光速度不変の原理といいます。)で考えます。この前提に基づいて、
同じ問題を考えるとどうなるでしょうか。すなわち、観測者に対して、電車 A は走っていて、観測者と同じように止まっている電車 B の横を
通り過ぎるとします。ちょうど、真横で隣りあったとき電車の中央から両端に向かって光が照射されるとしましょう。光はどのように電車の両端
に届くでしょうか。
- 電車 B の場合
止まっている電車 B では、当然、同時に両端に達します。ただし、注意しなければならない点があります。それは、「同時に両端に達する」と
いうことを観察するのは、地上 あるいは 止まっている電車 B に乗っている観察者が観察しているという点です。これは忘れがちな重要な点です。
しかし、後で重要になってきます。
- 電車 A の場合
それでは、動いている電車 A ではどうでしょうか。上に書いたように、地上 あるいは 止まっている電車 B に乗っている観察者が観察している
場合を考えましょう。すると、照射される光は、空気の速さも、光源の移動速度も関係なく、止まっている観測者から見て一定の速さで進むので、
下のアニメーションのように進みます。左側の端には、右側の端よりも先に光が到達するでしょう。
アニメ2(※ 左下の三角の印をクリックしてください。)
- 問題設定-2-
同じ現象を、移動している電車 A に乗っている観測者から観測したらどうなるでしょうか。
- 電車 A の場合
今度は、電車Aは止まっていると観察されます。電車Aに乗っている観測者は景色を見たり、電車の振動を感じなければ、電車が動いている
ことに気づきません。観測者と共に移動している電車Aは、止まっていると観察されます。
この観察者に対して、光は一定の速さで進むのですから、光は同時に両端に達します。
- 電車 B の場合
今まで止まっていたと考えていた電車 B が今度は動いていることになります。電車Aに乗っている観測者から観察するからです。電車 B の
中で照射された光は、やはり、空気の速さも、光源の移動速度も関係なく、電車 A に乗っている観測者から見て一定の速さで進むので、下の
アニメーションのように進みます。そこで、右側の端には、左側の端よりも先に光が到達するでしょう。
アニメ3(※ 左下の三角の印をクリックしてください。)
- ここまでのまとめ
ここまでの結果をまとめてみます。強調したいのは、常識とは異なる驚くべき事実です。同じ現象を電車 A に乗って観察する場合と電車 B に
乗って、あるいは地上から観察する場合とで違って見えるということです。電車 A に乗って観察すると、電車 A では光は両端に同時に届き、
電車 B では、右の方が先に端に光が届きます。電車 B に乗って観察すると、今度は、電車 B で、光は両端に同時に届きます。一方、電車 A
では同時ではなく、左端の方が先に光が届きます。このように、何が同時で、どちらが先に起こったことか、ということが、立場(電車 A に
乗っているか B に乗っているか)によって変わってきてしまうのです。
時の流れ方 †
次に、別の話として、移動している物体の中での時間の流れ方について考えてみましょう。
- 問題設定
光が往復することで時間を測る時計(アニメ4のClock B)があったとします。光は上端と下端で反射するとします。同じ時計が、動いていたら
どうでしょうか。ただし、上に書いたように、同時とかなんとかが面倒なので、運動の方向は、光が往復する方向とは直交しているとします。
- 結論
ここでも、光の進む速さは一定であるように観察されるということを前提に考えます。止まっている観測者から止まっている時計 B と、運動
している時計 A を観察したとします。アニメ4でわかるように、時計 A では、光の通る経路が斜めになるために、下から放射された光が上に
到達するまでの時間は、時計 B よりも長くなります。これは、時計 B が測る時の流れがゆっくりであることを意味しています。
なお、付け加えて書くと、時計 A と共に動く人が観察すると、光はまっすぐ上に上がるので、静止している人が時計 B で時間を測るのと全く
同様に時間を計測しているように観察されます。つまり、動いている人も、自分の時間がゆっくり流れているとは感じていません。普通に時が
流れていると感じるはずです。
アニメ4(※ 左下の三角の印をクリックしてください。Ctrl キーを押しながら F キーを押すと残像が消えます。)
おまけ †
- 全般的なこと
走っている方の電車や時計について、長さが間違っているのではないか、という指摘がありそうです。これについては、あえて長さが違っている
ように作ってあります。何故かは、相対性理論をきちんと勉強した時に学んでください。
- アニメ4について
時計 A と共に動く人は、下から放射された光は真上に向かって進むと思っています。ところが、これを時計 B と共に止まっている観察者から
観測すると、斜め上方に放射したように見えるという前提でアニメーションが作られています。これでいいのでしょうか?実は、いいのです。
「下から出た光が上に届く」という事実は、どちらの立場で観察しても変わらない事実のはずです。そこで、このようにならざるをえません。
光が進む向きも、静止しているのか、運動しているのかの立場の違いによって、異なってくるということになります。
- 【こぼれ話 ベテルギウスは既に爆発しているのか】
星は遠い彼方にあります。オリオン座にある1等星のベテルギウスは、爆発しそうな赤色巨星です。
600光年以上はなれているそうですから、私たちが見るベテルギウスは、600年以上前に放たれた光で
あるということになります。だから、実際にはもう既に爆発しているのかもしれません。
ただ、これは、地球とベテルギウスが止まっているとする座標系から観察した場合です。これを、上の
アニメで考えてみます。設定として、電車 B の中心をベテルギウス、右端を地球だと考え、その距離を
600光年と考えます。まず、アニメ2で考えましょう。ベテルギウスー地球間の距離を光の速度で光が進
むとすると、光が届くのに600年かかります。両者が静止している座標系で考えると、600年かかるわけです。
しかし、アニメ3ではどうでしょうか。ベテルギウスから地球に向かって速い速度で移動する宇宙船の中
から、電車 B で生じる同じ現象を観察してみます。つまり、ベテルギウス(中央)から放射された光が地
球(右端)に届く現象を観察します。すると、600年よりも短時間で光が到達することがわかります。もし、
光の速度と非常に近い速度の宇宙船だったとすると、ベテルギウスから地球まで1年しかかからなかった、
ということがありえるでしょう。ということは、地球に到達した宇宙船の乗組員は、「1年前に、ベテル
ギウスの横を通りすぎてきたけど、その時はまだ爆発していなかった」などと言うことができるでしょう。
私たちには600年以内に爆発しているかどうかわかりません。しかし、宇宙船の乗組員は、1年以内に爆発
しているかどうかはわからないけど、1年以上前は確実に存在していた、と断言できるのです。そして、
どちらの立場で言っていることも本当である、という訳です。
このように、遠くはなれた場所での時間の前後関係を考えるときは「誰が観測するか」が重要になる
ので注意が必要です。それによって結果が違うからです。